J-KISSとは?導入するメリット・デメリットや活用時のポイント
「J-KISSって実際にどんなことをするのか」
「J-KISSをする上で、どのようなことに注意すればいいのか」
資金調達を検討している方の中には、J-KISSという方法について詳しく調べている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、J-KISSの仕組みや利用するメリット・デメリット、導入の流れ、注意点について紹介します。
資金調達を試みている方は、J-KISSの導入も検討してみましょう。
1.J-KISSとは

J-KISSとは、簡単にいうとシード期(起業前または起業後間もない段階にある企業で成長が見込める時期)の企業向けの簡易的な資金調達方法です。
2016年にベンチャーキャピタルの500 Startups Japan(現在のCoral Capital)が無償公開したテンプレートに沿って有償新株予約権を発行することで、スタートアップ企業は簡単に資金を調達することができます。
J-KISS型新株予約権と呼ばれることもあり、具体的な条件を決定せずに、簡易的なフォーマットで迅速に資金調達できる点が特徴です。
ある程度の投資金額といくつかの変数だけを決めたら、資金調達を実施して新株予約権を発行するだけなので、資金調達方法として有力といえます。
速やかに資金調達を図りたい企業は、J-KISSを前向きに検討してみましょう。
2.J-KISSの仕組み

J-KISSを利用するには、どのような仕組みになっているのか把握しておくことが大切です。
特に以下のポイントは理解しておく必要があります。
- 新株予約権がいつ株式に転換されるのか
- 転換される株式の種類や数はどのように決まるのか
- 第三者に発行会社が買収されたらどうなるのか
J-KISSの仕組みを理解した上で、資金調達に取り掛かりましょう。
(1)新株予約権がいつ株式に転換されるのか
まず、新株予約権(J-KISS)がいつ株式に転換されるのかについて説明します。
J-KISSが株式に転換されるタイミングは主に以下の3パターンです。
- 一定金額以上の株式による資金調達が行われたとき
- 転換期限を経過したとき
- 発行会社が買収されたとき
J-KISSが株式に転換される事由にはどのようなものがあるのか確認しておきましょう。
#1:一定金額以上の株式による資金調達が行われたとき
事前に定められた金額以上の株式による資金調達が行われたときに、J-KISSは株式に転換されるようになっており、J-KISSのフォーマットでは、このタイミングのことを「次回資金調達」という用語で表現されています。
設定金額に到達した場合、主に新株予約権を取得した投資家が行使するのが一般的ですが、投資家が自発的に行使しない可能性もあるでしょう。
そこで、一定金額以上の株式が発行された場合は、強制的に株式に転換されるようになっています。
たとえば、1億円以上と設定された場合は、発行株式による資金調達が1億円に到達したときに投資家が保有している新株予約権は、強制的に株式に転換される仕組みです。
新株予約権が株式に転換される事由の多くは、投資家による行使が一般的ですが、設定金額以上の株式を発行した場合も株式に転換されることを押さえておきましょう。
#2:転換期限を経過したとき
予め定めてある転換時期を経過したときも、新株予約権を取得した投資家は自由に株式に転換することができます。
これは、一定期間内に事前に設定した金額に株式の発行が追いついていない場合でも、投資家が自分の意思で株式に転換できるようにするためです。
もし転換期限を設けていなければ、発行済株式の金額が一定金額に到達しない限り、一生行使することができません。
投資家の保護を図るために、事前に転換期限も定めておきましょう。
ちなみに、転換期限は任意で定めることができますが、一般的には18ヶ月としている企業が多い傾向があります。
また、投資家が株式に転換するためには、J-KISS投資家全体の出資金額ベースで過半数の賛成が必要です。
#3:発行会社が買収されたとき
新株予約権を発行した会社が買収される場合も投資家はJ-KISSを株式に転換することが可能です。
また、株式への転換ではなく、出資金額の2倍の金銭を請求することもできます。
ちなみに、転換期間後に発行会社が買収された場合は、転換期限を経過した場合の手続きに則って株式に転換することになるので注意しましょう。
(2)転換される株式の種類や数はどのように決まるのか
転換される株式の種類や数がどのように決まるのかについて説明します。
J-KISSの株式への転換が、「一定金額以上の株式による資金調達が行われたとき(次回資金調達)」によるものか、それ以外の事由によるものかで内容が変わるのがポイントです。
株式への転換事由によって株式の種類や数が変わることを押さえておきましょう。
#1:一定金額以上の株式による資金調達が行われたとき
一定金額以上の株式の発行(次回資金調達)によってJ-KISSが株式に転換された場合は、2つの種類株式が発行される傾向があります。
基本的には、次回資金調達時に発行した株式と同内容の種類株式になることが多いです。
ちなみに、株式の株価や株式数は、以下の2つで決定されます。
- ディスカウントによる転換
- バリュエーション・キャップによる転換
具体的に説明します。
① ディスカウントによる転換
ディスカウント(割引率)とは、次回資金調達時の発行条件より低い価格で株式を取得できる方法です。
次回資金調達時の発行条件よりハードルを下げることで、出資者が行使しやすくなり、資金を集めやすくなります。
予め設定していたディスカウント率を次回資金調達時の株価にかければ、J-KISS投資家の取得価額を決定することが可能です。
ディスカウント率は任意で決めることができますが、基本的には、0.8倍で計算される傾向があります。
②バリュエーション・キャップによる転換
バリュエーション・キャップとは、株式への転換の際の取得価額において、一定の上限を設ける方法です。
つまり、実際の株式の取得価額がバリュエーションキャップによって定めた取得価額を上回った場合、バリュエーションキャップの価格で株式を取得することができます。
J-KISS投資家は次回資金調達時の株価が高額でも、一定の価格以下で株式を取得できるので、安心してJ-KISSを活用して企業に投資することが可能です。
上限価格は、次回資金調達時の株価を完全希釈化後株式数で割ることで算出できます。
完全希釈化後株式数とは、発行済株式と新株予約権を転換した株式の合計数です。
上限額をもとに発行する株式数を決めましょう。
ちなみに、細かい話をすると、J-KISSには従来版と新版があり、従来版は完全希釈化後株式数にJ-KISSの新株予約権を含めないのに対し、新盤は含めるようになっています。
従来版は新株予約権を発行しても既存の持株の株価は変わりませんが、持株比率が下がるのに対し、新盤は新株予約権を発行するたびに持株の価格は下落しますが、持株比率は変動しません。
既存の投資家に対する影響が変わるので、どちらを採用するかじっくり検討する必要があります。
#2: 次回資金調達以外の事由による転換
次回資金調達以外の事由(転換期限の経過や買収の発生)で株式に転換する場合は、普通株式を発行することになります。
ただし、転換期限経過後に、次回資金調達が行われた場合は、次回資金調達時に発行された種類株式と実質的に同じ内容の株式が発行されるので注意しましょう。
また、転換によって発行される株式の株価や株式数は、すべてのケースにおいてバリュエーション・キャップが採用されます。
そのため、次回資金調達以外の事由で株式に転換される場合に備えて、取得価額の上限を決めておきましょう。
(3)第三者に発行会社が買収されたらどうなるのか
第三者に発行会社が買収された場合は、投資家には2つの選択が発生します。
- バリュエーション・キャップを基準に株式に転換して買収に参加する
- 取得条項に基づいて新株予約権と引換えに、出資金額の2倍の金銭を発行会社から受け取る
要は、新株予約権を行使して株式に換えた上で買収企業への影響力を得るか、株式の取得を放棄して出資金額の2倍の金銭を得るかのどちらかを選択することになります。
投資家の立場からすると、リターンの大きいほうを選択することになるでしょう。
ちなみに、新株予約権と引換えに出資金額の2倍の金銭を受け取るという選択がある理由は、投資家保護を図るためです。
投資家は発行会社のポテンシャルを買って出資しているわけで、買収企業に対して出資しているわけではありません。
買収企業が成功を収めればリターンを得ることができますが、必ずしも十分な利益を確保できるわけではないため、買収企業への信用が低いと判断した場合に出資金額の2倍の金銭を受け取れるようになっています。
ただし、転換期間後に発行会社が買収に応じた場合は、新株予約権を株式に転換する際に、J-KISS投資家の過半数の同意が必要です。
3.J-KISSを利用するメリット

J-KISSを利用することでいくつかのメリットが期待できます。
主なメリットは以下の4つです。
- 資金調達までの実行が速い
- 投資の条件を繰り延べできる
- 透明性が高い
- コストが安い
J-KISSの導入を迷っている方は、判断する際の参考にしてください。
(1)資金調達までの実行が速い
J-KISSの一番のメリットは、資金調達までのスピードが速い点です。
スタートアップ企業が手っ取り早く資金調達をする際に便利で、複数の様式に株式を転換できるため、投資家に対して交渉しやすい特徴があります。
投資家との交渉がスムーズに進めば、事業に専念できる時間を確保できるため、時間を有効活用できるでしょう。
(2)投資の条件を繰り延べできる
J-KISSは、期限や取得株価などの細かい条件の決定を繰り延べることができます。
従来の資金調達では、細かな条件を決定した上で投資家に対してアクションを起こすことになりますが、J-KISSは仮の投資契約として最低限の条件のみで契約をすることが可能です。
J-KISSによる契約は、資金調達によって事業がある程度進捗して、さらに大きな資金を調達する際の投資契約に置き換えることができます。
つまり、次の大きな資金調達のための投資契約にJ-KISSによる契約の内容を盛り込むことができるということです。
細かい投資条件に関してあとでじっくり考えたい企業は、J-KISSを活用しましょう。
(3)透明性が高い
J-KISSを活用することで、透明性の高さを担保することができます。
フォーマットに記載されている条項は一定なので、契約後に修正したらすぐにわかるようになっているのが特徴です。
契約書冒頭にフォーマットが修正されていないことを明記しているため、投資家からの信頼を得やすくなるでしょう。
(4)コストが安い
J-KISSは公表されている投資契約書のフォーマットを活用するため、低コストで運用することができます。
弁護士や税理士などの専門家のレビューも行われており、国内の規制や法律に適合しているため、専門家に依頼することなく活用可能です。
細かい交渉を省くことができるため、費用や時間のコストを最小限に押さえることができるでしょう。
4.J-KISSを利用するデメリット

J-KISSを利用する上で、想定しておくべきリスクについても紹介します。
主なデメリットは以下の2つです。
- スキームを十分に理解しなければならない
- 株式の希釈化が高まる
J-KISSを利用することでメリットもありますが、デメリットもあることを頭に入れた上で活用しましょう。
(1)スキームを十分に理解しなければならない
J-KISSを活用するには、経営者が大きな枠組み(スキーム)を理解しておく必要があります。
資金調達時に企業価値を確定し株価を決める必要はありませんが、無条件で資金を調達できるわけではなく、最低限の条件は提示しなければなりません。
フォーマットに沿って契約を進めるだけだからといって、深く考えずに資金調達してしまうと、後ほど大きなトラブルが発生する可能性があります。
投資家との信頼関係を築くためにも、投資条件の繰り延べの流れまでは把握しておきましょう。
(2)株式の希釈化が高まる
株式に転換された際に、株式の希釈化が高まるリスクが生じる点には要注意です。
先ほど述べましたが、従来版のJ-KISSの場合、新株予約権を発行するたびに既存株主の持株比率が下がってしまいます。
投資家は持株比率によって影響力を持つため、持ち株比率が下がれば、それだけ発言権が弱くなるのです。
新規の投資家を増やすことも大切ですが、既存株主の信頼を裏切れば、株式の売買が盛んになり、株価が下落するリスクが高くなります。
株価は企業の価値を表しているため、資金調達において大きな影響を受けることになるでしょう。
そのため、既存株主の立場も考慮した上で、発行する新株予約権の数を決めることをおすすめします。
5.J-KISS導入の流れ

J-KISSを導入するときの流れについて紹介します。
主な流れは以下のとおりです。
- 株主総会での決議事項
- 契約締結
- 登記手続き
J-KISSを導入する際の参考にしてください。
(1)株主総会での決議事項
まずは、株主総会でJ-KISSの内容について決議を行いましょう。
会社法第238条では、以下の内容が決議事項として定められています。
[box class=”blue_box” title=”株主総会での決議事項”]
- 募集新株予約権の内容及び数
- 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
- 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権1個と引換えに払い込 む金銭の額をいう。)又はその算定方法
- 募集新株予約権を割り当てる日(割当日)
- 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
- 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合には、募集社債(第676条)に関する事項
- 新株予約権の買取請求の方法(第118条第1項、第179条第2項、第777条第1項、第787条第1項又は第808条第1項の規定)につき別段の定めをするときは、その定め
[/box]
新株予約権の内容や数、割当日、金銭の払い込み期日など定めなければならない項目がたくさんあります。
J-KISSの契約書と発行要項を分けて株主総会議事録にまとめておきましょう。
(2)契約締結
株主総会での決議事項をもとに投資家と契約を締結します。
払込期日までに投資家から払い込みが行われているか確認し、完了していれば通帳のコピーを証明書類として保管しましょう。
なお、コピーする通帳の場所は、通帳の表面と1ページ目、払い込まれたことを証明できるページの3点です。
払い込まれたことがすぐにわかるように、該当箇所に蛍光ペンで印をつけておきましょう。
(3)登記手続き
投資家からの払い込みを確認したら、登記手続きを行います。
まず、登記申請書を作成しなければなりません。
登記申請書の主な記載事項は以下のとおりです。
[box class=”blue_box” title=”登記申請書の主な記載事項”]
- 会社法人等番号(履歴事項全部証明書等に記載がある12桁の番号)
- 商号(登記している名称を正確に記入)
- 本店(登記している内容を正確に記入)
- 登記の事由(募集新株予約権の発行など)
- 新株予約権の名称と数
- 新株予約権の行使可能期間
- 新株予約権発行日
- 新株予約権の数の算定方法
- 新株予約権の行使条件(定めた場合)
- 新株予約権の取得条項(定めた場合)
- 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額と算定方法
- 新株予約権の行使時に金銭以外の財産を出資できる場合は、その旨並びに当該財産の内容及び価額
- 募集新株予約権と引換えに金銭の払込を要しない場合には、その旨
- 募集新株予約権の払込金額又はその算定方法(有償で新株予約権を発行する場合)
- 登録免許税(J-KISSによる新株予約権の内容のみを登記する場合は9万円)
[/box]
また、登記申請書とは別に添付書類の準備も必要です。
たとえば、以下のような添付書類を揃える必要があります。
[box class=”blue_box” title=”必要な添付書類”]
- 株主総会議事録(捺印済みのもの)
- 株主名簿(株主総会時点のもの)
- 募集新株予約権の申込みを証する書面(J-KISS投資契約書)
- 払い込みがあったことを証する書面(通帳のコピーなど)
- 割当先及び数の決定を証する書面
[/box]
ちなみに株主総会議事録の原本を提出する場合は、原本還付請求を行います。
原本還付請求を行うには、原本証明が必要なので注意しましょう。
必要な書類が揃ったら、最寄の法務局の商業・法人登記の窓口に書類一式を提出します。
もし提出書類に不備があれば、担当者が修正点を教えてくれるので、指摘された事項を修正して、後日提出しましょう。
スムーズに手続きを進めるために、事前に法務局で直接必要な書類が何か確認し、アドバイスをもらっておくこともおすすめです。
6.スタートアップ企業が活用するときのポイント

スタートアップ企業がJ-KISSを活用するときに、いくつか気を付けるポイントがあります。
特に注意すべき点は以下の3つです。
- 交渉対象の条件を理解する
- 優先株式が発行される可能性が高い
- バリュエーションの先送りには限界がある
実際に活用する際に意識してみましょう。
(1)交渉対象の条件を理解する
スタートアップ企業がJ-KISSを活用するには、交渉対象の変数を理解しておくことが大切です。
公表されているフォーマットに記されている条件(変数)に沿って、投資家と交渉を行います。
フォーマットに指定されている条件は以下のとおりです。
[box class=”blue_box” title=”フォーマットに指定されている条件”]
- 次回資金調達の基準となる調達金額(相場は1億円)
- ディスカウント率(相場は0.8倍)
- バリュエーション・キャップ(上限価額)
- 転換期限(相場は18ヶ月)
[/box]
必ずしも決めておく必要はありませんが、これらの条件をもとに投資家と交渉を行うことを押さえておきましょう。
(2)優先株式が発行される可能性が高い
優先株式が発行される可能性が高い点にも注目です。
次回資金調達による転換が行われた場合、J-KISS投資家も実質的に同内容の株式が発行されるため、優先株式が発行される傾向があります。
優先株式は、残余財産の優先分配権など投資家にとって有利な権利が設定されており、会社法上において種類株主総会決議が必要です。
J-KISS投資家にはさまざまな権利が付与されることから、一般的な株式による投資手法と異なる点に注意しましょう。
(3)バリュエーションの先送りには限界がある
バリュエーション(企業の利益・資産などの企業価値評価)の先送りには限界がある点も押さえておきましょう。
J-KISSは資金調達時に株価等を決める必要がないため、すぐには企業価値を評価する必要がありません。
発行会社がバリュエーション・キャップを定める場合は、評価の先送りが実現できますが、スタートアップ企業が資金調達を行う際、投資家側の評価によって交渉が行われるのが一般的で、この場合バリュエーションの先送りができなくなります。
投資家はリスクを軽減するために、バリュエーション・キャップによる転換だけでなく、ディスカウントによる転換も検討するため、必ずしも発行会社が主体となって交渉できるわけではないことを頭に入れておきましょう。
バリュエーションの先送りができない場合に備えて、慎重に計画を立てて交渉に臨むことがポイントです。
まとめ
J-KISSはスタートアップ企業が資金調達をする上で利便性の高い方法です。
資金調達実現までが速く、低コストかつ気軽に投資家を募ることができます。
ただし、株式の希釈化などのリスクも想定しておく必要があるので、既存株主にも配慮することが大切です。
資金調達を図りたいスタートアップ企業は、前向きにJ-KISSの活用を検討してみましょう。
Univisでは、J-KISSなどの資金調達に関する相談を受け付けております。
専門家のサポートを希望する方はお気軽にご相談ください。